日本経済新聞社は4月23日、オープンフォーラム「技術者が語る、テクノロジーと新時代のメディア」と題したイベントを開いた(協力:日経デジタルコア)。会場は東京・千代田のKDDIホール。日経電子版の開発に関わったベンチャー企業経営者などインターネット業界の関係者をパネリストに招き、目まぐるしく変化する技術動向などをテーマに議論した。
パネリストは以下の通り。
・伊藤正裕氏(ヤッパ社長)
・猪子寿之氏(チームラボ社長)
・手嶋守氏(手嶋屋社長)
・金正勲氏(慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科准教授)
・楠正憲氏(マイクロソフト 法務・政策企画統括本部 技術標準部部長)
・赤沢大典(日本経済新聞社 デジタル編成局事業企画部次長)
(司会は日本経済新聞社 デジタル編成局編成部 重森泰平)
ディスカッションではまず、日経電子版の技術・コンテンツについて、パネリストが意見を交わした。日経電子版では、1週間分の新聞紙面を閲覧できる「朝刊・夕刊」コーナーで、ヤッパの技術を採用している。ヤッパの伊藤正裕社長は「新聞はインターネットより長い歴史があり、編集ノウハウも蓄積されている。技術的にはものすごく難易度が高かったが、紙面を残しながら電子を混ぜ合わせるということに挑戦させてもらった」とコメントした。
手嶋屋の手嶋守社長は日経電子版について、「ログインをするのが非常に大変。お金を払った人が、(手間をかけて)ログインしないといけないというのは止むをえないけど不便」と注文を付けた。また、「ソーシャル機能も必要ではないか。日経新聞の本質は、『日本ビジネスマン会報誌』であることだ。ソーシャルの力を生かすべきと思っている」と追加機能についても要望した。
また、マイクロソフトの楠正憲氏は「自分が書いたNTT再々編についてのコラムが載った。それについて、ツイッターに書き込みたいと思ったが、URLが非常に長く困った。一般の短縮URLサービスでは『フィッシング詐欺』が心配なので、日経公式の短縮URLサービスを出してもいいのではないか。ニューヨーク・タイムズ紙はそういう取り組みをしている」とコメントした。
電子版の技術に続いて、新しいメディアとして期待されるアップルの「iPad」についても議論した。ヤッパの伊藤氏がまずiPad上で閲覧できる電子雑誌のデモンストレーションをした。女性ファッション誌を電子化したもので、表紙に動画を取り込んだり、誌面中にも動画や写真を追加したりと電子化によってコンテンツを充実させている。
伊藤氏は「出版社と話す機会が増えているが、今までの取材の方法を変えていこうという話が出ている。写真だけじゃなくて、動画もついでに撮ってくるとか。製本しないから誌面の端の部分も使い方が変わってくる。コミュニティー機能も重要だろう。紙媒体は刷られた時点から情報の鮮度が下がっていくが電子なら鮮度を上げられる」と新しいメディアとしての可能性について言及した。
手嶋氏は「(iPadのような)デバイスは手に取れる感じがあるから、売れるのではないか。新聞を単に白黒のまま電子化したのではつまらない。似通った人たちが見たところが赤くなるとか、ヒートマップのようになっていたら面白いと思う」と話した。
一方、チームラボの猪子寿之社長は「携帯電話のように電話したりメールしたりするツールがメディアになるというのはすごいと思う。しかし電子書籍リーダーは、文字どおり「読むもの」であり、自分が発信できるツールではないので、めちゃくちゃ盛り上がることはないかもしれない。タブレットやスマートフォン、電子書籍リーダーなどがデバイスとして注目されているが、ツールとしてはぜんぜん違うものなのだとも思う」と独自の見解を述べた。
慶應義塾大学大学院の金正勲氏は「デバイスについてはこれから議論が深まっていく。iPhone以降は、ハードウエアが進化していてソフトウエアとの境界が崩壊しているのではないか。製品としてではなく、サービスとなり、随時アップデートしていく。そういうものを作っていくところが成功していくのではないか」とコメントした。
パネルディスカッションの最後のテーマとして、技術革新が進んでいくなかで、メディアが取っていく方向性について議論した。
楠氏は「大事な問題として、世代の問題がある。雑誌は40代ぐらいが中心読者で、若い人は雑誌の発売日に本屋に行かなくなった。20代の技術者は、ネットでキーワード検索して見つからなかったら、それをないものとして考えるような人もいる。電子書籍リーダーは、アメリカでは40~50代の人が使っているようだ。つまりリアルの本をたくさん買っていた人たちだ。媒体への接触は変わらない。世代によって違う生活のパターンをもっている。そこにどうやって入っていくか、ということ」と指摘した。
金氏は「『食べていくために書く人』の文章が掲載できるような場でないといけない。ソーシャルメディア側がそうしたビジネスモデルを提示しないかぎり、マスメディアは乗らないだろう」と話した。
これに対して猪子氏は「音楽ではライブとコンテンツがいい感じになっている。ものによっては、(コンテンツを)どんどんフリーにしていく必要があると思う。新しいメディアの流れに逆ったり、止めたりするのではなく、違うビジネスモデルに取り組んだほうがいいのでは」と発言した。
会場には約110人が参加。動画のネット生中継、ツイッターを通じても多くのネット利用者が発言した。